商社マンのEthics〓なぜ捏造は起こったか

同じ商社マンとして悲しむべき事件が起きた。
三井物産のディーゼル車用排ガス浄化装置のデータ捏造である。
同社の不祥事と言えば、誰もが2年前の国後島不正入札事件を思い起こすだろう。
同事件は現職部長の逮捕者を出し、当時の経営陣が交代するという大事件となった。
なのに、また…である。
他人(他社)の不幸を見てほくそ笑む同業者の方もおられるかもしれないが、業界外の方々から見れば看板がどうであれ商社は同じ、やっぱり腹黒い奴らなのね、という印象を持たれていることだろう。
まったく、なぜこんな事件が起きてしまったのか、憤りと失望とを感じずにはおれない。

さて、毎日新聞によれば、今回の事件は、三井物産の内部監査で社員が告白し、判明したという。
先の国後島事件の直後に、同社は社内監査チームを大幅増員すると発表していたから、ある意味教訓は生きていたのかもしれない。
しかし、起きてしまってからでは遅い。予防効果あっての社内監査チームだろう。
それ以前に、監査が入るまで社員が事件に対し押し黙っていたことに本事件の根の深さが感じられる。
これには商社という企業形態が少なからず影響していると考える。

商社といえば誰もが「商売をする会社」とは想像できても、具体的に何をしている企業なのか正確に答えることは難しいだろう。
ちょっと知っている人であれば「売買の間に立ってマージン抜いてるだけでしょ?」と答えるかもしれないが、嘗て60〓70年代に全盛であった「仲介業」もいまや過去のビジネスモデルとなっている。
今や商社は売買仲介から、融資・リース・先物取引等金融ビジネス、鉱山開発・油田開発等資源開発ビジネス、果てはコンビニ経営まで広く営む貿易会社兼投資銀行コンサルティングファーム、傘下に多種多様な業種の関係会社を有する一大コングロマリットの体を成しているのである。
どの企業も多かれ少なかれ多種多様なビジネスが渾然一体となり、ひたすら金儲けに邁進している。
そこには企業理念などなく、ただ「GREED」(貪欲)という本能があるだけである。
企業理念がないのだから、何をしている会社なのか、業界外の方々に分からないのも無理はないだろう。

また一方で、商社は営業会社、つまり営業マンの集団である。
多くの米国系企業のように職能別に役割が綺麗に分業化され、ひたすら売りまくって債権回収に責任を持たない(債権回収はAccounting担当)営業マンとは異なり、一人で企画・マーケティング・営業・契約・債権回収すべてに責任を負うとは言え、営業マンは営業マンだ。
ビジネスの世界では儲けたもん勝ち、という原則が体に染み付いている。
ここで注意すべきは、本来商社マンは驚くほど「お作法」にうるさいということだ。
ビジネスをやる以上、それを統括する「ルール」が存在しているということをよく理解し、「ルール」に従った上で当事者間で合意した内容を書面に残さないと意地でも先に進まないのが商社マンという人種だ。
しかし、「ルール」すれすれの線を狙えば狙うほど儲けが高いことを熟知しているのもまた商社マンという種族であり、商社のビジネスは常にすれすれの線、グレーゾーンを狙っているとも言えるのである。

但し、グレーゾーンを狙うのは何も商社に限った話ではなく、儲けにシビアな企業であればよくある話である。
嘗て優秀なMBAホルダー達が、投資銀行でのリースビジネス担当として、税制の隙間を突いて幻想とでも言えるカネをがっぽり儲け、華々しく活躍していたことはよく知られている。
また、IT業界の大魔神Microsoft独禁法とのバトルなど、引き合いに出すまでもない例である。
そうしたガメツイ企業と「お上」の戦いが、「ルール」をより厳密に、公正に、漏れのないよう変化させ続けている。

さらには、近年のITの発達が、「嘘」を許さない仕組みの外堀を埋めつつある。
Google Desktopを入れている人であれば知っていると思うが、設定で「Show Desktop Search results on Google Web Search result pages」をオンにしておくと、GoogleのWeb検索の結果表示時にご丁寧にローカルPC内の検索結果まで表示してくれる。
他人に自分のPCを使わせてあげているときに、彼がふと「エロ画像」なんて検索したらPCのHDD内の恥づかしいファイルがたくさん表示されてしまう、なんてことが起きるのである。
また、誘拐事件や行方不明事件が起きるたび携帯電話のトラッキングを行ったり、掲示板への犯行予告の書き込みがあるたびIPアドレスから「逆探知」することなど今や当たり前になっている。
それくらい、ITの力の前に我々は丸裸であり、「ルール」の進化と相俟って「嘘がつけない」時代になっているのだ。

こうした時代に必要なのは、当たり前のことながら、「正しく仕事をして、正しくお金をもらうこと」である。
嘘をついても必ずばれる。
嘘をついたら取り返しがつかなくなる。
そういうことをよく理解して、当たり前のことを当たり前にやる、それこそが今商社マンに求められていることであるはずだ。

最後に、商社マンの原点は幕末の海援隊にある。
明治維新以降、現在に残る商社を起業したアントレプレナー達は、海援隊同様、日本の将来を憂い、日本の発展を目指して海の向こうの国々に果敢に挑戦していったのではなかったか。
我々はそうした先人達の崇高な精神を忘れてはいないか。
今回の事件を通し、商社マンとしての原点を改めて再認識し、決意を新たにした次第である。


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