商社マンらしくIBMのPC部門売却に思う

IBMがPC事業部門を売却するという。
既にあちこちのブログでも取り上げられている話題だが、ここでは商社マンらしく、「数字」と「戦略」の観点から本件に対する一考察を述べてみたい。

IBMのPCと言えば皆さんが思い浮かべるのは何だろう?
私が真っ先に思い浮かべるのはThinkpadだ。恐らく8割方の人がそう答えるのではないか。
それくらいThinkpadはメジャーなノートPCであり、実際ビジネスミーティングの場では、半分以上はThinkpadを使っている印象だ。特にネットワーク業界の人やヘヴィユーザーに愛好家が多い。
ソレ系の会議なんかに出席すると、大半がThinkpadを叩いており、残りは松下電器の隠れた名機・Let's NoteかスタイリッシュなソニーVAIOだ。
かく言う私も帰りの電車の中でThinkpadでこの原稿を書いている。
何と言ってもキーボードの叩きやすさとトラックポイントの使い勝手では並ぶものがない。
このあたりのユーザー評価についてはPC Watchの10周年記念の特集が詳しい。

さて、デスクトップPCにもThinkpadキーボード(本記事トップの写真&リンク参照)をつないで一人悦に言ってるオタク商社マンの与太はこの辺にして、数字を見てみよう。
New York Timesの記事およびそれをソースとしてる記事を見ると、IBMのPC市場におけるShareは何とたったの5.6%だと言う。上述の通り、少なくともビジネスユースではThinkpadが圧倒的に多いという印象に対し、あまりに少なすぎる印象だ。
そこで、市場データを見てみると、ノートPC市場はざっくり25百万台/年程度
Thinkpadは年間4〓5百万台出荷してるという話なので、ノートPC市場だけ見ればShare 20%。
やはりノートPC市場においてIBM Thinkpadは抜群の強さを誇っている。
一方、PC全体の市場はざっくり150百万台。つまり、デスクトップPC市場は約125百万台ということになる。
先のNY TIMESの記事と、ノートPC市場Share20%、IBMのPC全体に対するシェアは約5%ということだから、デスクトップPCのみにおけるIBMのシェアをxとすると、

(125×x+5)÷150 = 0.05
x = {(0.05 ×150)-5}÷125 = 0.02

つまり、ThinkpadのノートPC Shareは20%と圧倒的なのに対し、デスクトップPCにおけるShareはたったの2%。
DELLやHPのダイレクト販売や牛丼PCの登場で販売単価が暴落を続けるデスクトップPC市場において、たったの2%のShareしか持たないデスクトップPC部門がIBMにとって悩みの種だったことは想像に難くない。
さらに加えて、CNETの渡辺聡さんのブログ記事McDMaster's Weblogさんの記事にある通り、世のIT企業はサービス指向に傾倒しつつある。PwCコンサルティングを買収し、自社のコンサルティンググループと統合してIBMビジネスコンサルティングという名でサービス指向色を強めているIBMはその急先鋒だ。
戦略的観点からしても、デスクトップPC部門を持ち続けることはIBMにとって最早意味がなかったのだろう。

しかし、コモディティ化しつつあるとはいえ、絶大なShareを持つノートPC部門までも売却しようとしているのは何故だろうか?
コンサルティングやソリューションといったサービスビジネスにしても、それだけではまだまだ旨味が少なく、それを切り口にしながらもサーバーやシステム、ノートPCといった製品群を企業向けにバルクで売り込むことこそが現時点でのIBMのビジネス的旨味ではないだろうか?
もしかすると、2%という低シェアの問題児・デスクトップPC部門だけでは売却に応じる相手がおらず、苦渋の選択としてノートPC部門をも売却対象に含めようとしているのかもしれない。
とすれば、そこまでして「選択と集中」を行おうとしているIBMは今後、より一層付加価値の高いサービス&ソリューションビジネスに戦略的に資本を投下していくだろう。
奇しくも本日、そうした分野のひとつであるグリッド・コンピューティングについてのプレスセミナーをIBMは開催している。

いずれにせよ、PC部門売却の真偽すらグレーな現時点では全て想像にしか過ぎないが、この「選択と集中」の結論こそが、IBMひいてはIT業界全体の「サービス指向への流れ」を象徴的に表すことになるだろう。

ただ、個人的には、Thinkpadというブランド自体は殺さないでほしいと強く思う。
中身レノボの牛丼PCになってもいいから、このキーボードとトラックポイントだけは残してほしい。お願い。


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