商社マン、iPodに感動する

今更であるがiPod miniを手に入れた。
ガジェット好きの割りに今まで手にしなかったのは、NIKEのMP3プレイヤー(中身はRIO)を使ってたからとか、微妙にDisposable Incomeを超えてたからとか、シルバーかピンクか決めかねてたとか、理由は色々あるのだが、マイナー志向が災いして、発売以降あれよあれよという間にメジャー化したiPodにちょっと背を向けてたところが大きかったように思う。その辺、本家iPodではなくminiを選んでしまうあたりに微妙にその名残が残っている。
で、ビジネス的な視点としては、これまでiPodは「まずiPodのデザイン的魅力でハードを売り、継続的なソフト販売(iTunes Music Store)で収益を稼ぐモデル」の為に作られた製品だと思っていたのだが、これが大きな間違いだった。

恐らくiPodは、もっとシンプルで楽しいだけのガジェットとして開発されたのだ。
長時間PCの前に座って作業していると、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していく。
中にはそれでもパワフルに黙々と作業し続ける人もいるだろうが、多くの人は何らかの緩衝材の投入を試みるはずだ。人によってはそれはコーヒーであったり、タバコであったり、ポテトチップスだったりするが、食べ物ほど人を選ばないという意味では音楽の方が一般的だろう。
iPodはまさにそうした「PCを使いながら音楽を聴く」人のための製品なのだ。
プログラマの3大美徳と呼ばれるものに「怠惰」「短気」「傲慢」というのがあるが、PCのヘヴィユーザーというのは多かれ少なかれこうした気質を有している。そうした人々にとってみれば、いちいちCDを入れ替えるのも、ラジオ番組を切り替えるのも面倒なことこの上ない。もしそれらをすべてデスクトップで操作することができたら…?
何のことはない、それがiTunesであり、iTunesと自動的に同期を取ることでデスクトップの音楽を簡単に外に運び出せるようにしたものがiPodなのである。

つまり、ここが自分自身大きな勘違いをしていたところなのだが、考え方が逆なのだ。
例えば、これまで使っていたNIKE psaは「外で音楽を聴く」ために、「わざわざCDをMP3に落とし」、さらに「プレイヤーに転送する」必要があった。先の3大美徳を有する人間にとって、たかだか外で音楽を聞くだけの為にこのような回りくどい方法をとることは耐えがたい苦痛である。
一方iPodは「デスクトップで聞いていた音楽を自動的に持ち歩ける」、実に効率的な機械だ。Firewireで接続するかあるいはDockに差し込んでおきさえすれば、普段の音楽環境を持ち歩くことができる。これにより、SonyWalkman登場以降、外で音楽を聞くのに必要だった「録音」というプロセスが排除されたのだ。
よって、ただ家の中で別の部屋に音楽環境を持ち出したいというニーズに対しては、わざわざiPodで同期を取らなくとも済むよう、AirMac Expressにてワイヤレスでデータを送信するという別のソリューションが用意されている。

ある意味、iPodにとっては音楽は目的でないとすら言える。Palmがスケジューラの持ち出しを可能にし、Blackberryがメールの持ち出しを実現したのと変わりはない。単に対象が音楽であっただけの話である。
そして、iPodが他の携帯プレイヤーと一線を画すのはデザインでもビジネスモデルでもなく、3大美徳を有した人々に対するユーザビリティの高さ、使い勝手の良さなのだ。勿論それはiPodだけで実現したものではなく、iTunesあってこそなのである。

さて、ここまで書けば冒頭で述べた「大きな間違い」も明白だろう。
これまで筆者が考えていたのは、「iPodを買う」→「iTunesを使う」→「iTunes Music Storeに気づく」→「音楽をダウンロード購入する」→「Apple(゜д゜)ウマー」という流れであった。ここで想定していたiPodの役割は、「iTunes Music Storeの宣伝係」、AIDMAの法則におけるAttention = 認知段階における旗振り役であった。
しかし、実際にはiPodがなくともApple/iTunes Music Storeの成功は有り得たのだ。PC周辺に音楽環境を集中させるという、音楽ダウンロードビジネスへの下地は既にできあがっており、単にiTunesをリリースするだけでもそれなりに成功したのかもしれない。そこにiPodという非常にユーザビリティの高いガジェットを投入することで、前述のAIDMAモデルで言えば音楽ダウンロードに対する認知段階におけるInterstやDesireを高めることに成功し、爆発的な成功を収めることができたのだ。

本当のところはわからないが、Apple自身もiPod + iTunes + iTunes Music Storeの成功絵図を最初っから描いていたわけではないようにも思える。ただAppleの基本コンセプトに従い、使い勝手のよい製品とサービスを追求し、ユーザに快適な時間を提供した結果なのではなかろうか。
「お客が欲しいのはドリルではなく穴である」というセオドア・レビットの有名な言葉の通り、誰をどうやって喜ばせるのか、その追求こそがビジネスの成功につながるのかもしれない。


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